ASM(Attack Surface Management)とは?経済産業省も推奨するセキュリティ対策を徹底解説
サイバー攻撃が高度化・多様化する現代において、従来の境界型防御では不十分です。攻撃者の視点に立った対策として、ASM(Attack Surface Management) が注目されています。これは、インターネットからアクセス可能な自社のすべてのIT資産(攻撃対象領域)を可視化・管理し、リスクを継続的に評価・対処するためのプロセスです。経済産業省もその重要性を認め、導入を推奨しています。本記事では、ASMの基本から、CSPM、SBOM、DASTとの統合による相乗効果、そして実践的な導入ステップまでを、最新トレンドと政府ガイドラインを踏まえて徹底解説します。
目次
- ASMとは何か?なぜ今必要なのか?
- 経済産業省のASM(Attack Surface Management)導入ガイダンスで見るASMの基本プロセス
- ASMの主なメリット:攻撃対象の可視化から業務改善まで
- 単独のASMでは不十分?CSPM、SBOM、DASTとの統合が鍵
- 【統合ソリューションの威力】CSPM、SBOM、DASTを連携させたリスク管理
- ASM導入のステップバイステップガイド(ASM(Attack Surface Management)導入ガイダンス準拠)
- よくある質問(FAQ)
- まとめ:2025年のセキュリティ対策はASMの統合から
ASMとは何か?なぜ今必要なのか?
ASM(Attack Surface Management)は、組織のITエコシステムに対する脅威を発見、評価、軽減するための包括的なアプローチです。具体的には、外部(インターネット)からアクセス可能なIT資産に対して、脆弱性を特定し、継続的に評価する仕組みを提供します。攻撃対象領域管理とも呼ばれ、組織が保有するすべての外部公開資産を攻撃者の視点から把握することが核心となります。
なぜ今ASMが必要なのか
近年、公開サーバなどの外部公開資産を狙うサイバー攻撃が急増しています。同時に、シャドーITやクラウド資産の急速な拡大により、企業が把握していない攻撃対象が存在する状況が常態化しています。従来の内部ネットワーク中心の防御では、これらの脅威に対応しきれません。
攻撃者の視点から自社の情報資産を把握・管理し、セキュリティ対策が行われていない領域を発見することが、現代のサイバーセキュリティにおいて不可欠となっています。特に、リモートワークの普及やクラウドシフトの加速により、企業のIT資産は複雑化・分散化の一途をたどっており、ASMの重要性はますます高まっています。
ASM(Attack Surface Management)導入ガイダンスで見るASMの基本プロセス
経済産業省は2023年5月に「ASM(Attack Surface Management)導入ガイダンス」を公開し、日本企業に対してASMの導入を強く推奨しています。
公式URL: https://www.meti.go.jp/press/2023/05/20230529001/20230529001.html
このガイドラインでは、ASMの実施プロセスを3つの主要なステップに分けて解説しています。
(1) 攻撃面(Attack Surface)の発見
最初のステップは、ドメイン、IPアドレス、クラウド連携などを通じて、外部から見える資産を網羅的に棚卸しすることです。これには、公開されているWebサーバ、APIエンドポイント、クラウドストレージ、DNSレコード、SSL証明書などが含まれます。多くの企業では、IT部門が把握していない資産や、部門ごとに独自に導入したシステムが存在するため、この発見プロセスは極めて重要です。
(2) 攻撃面の情報収集
発見した資産に関する脆弱性情報や設定ミスを体系的に収集します。これには、OSやミドルウェアのバージョン情報、既知の脆弱性(CVE)の有無、不適切なアクセス権限設定、暗号化の不備などが含まれます。自動化ツールを活用することで、継続的かつ効率的な情報収集が可能となります。
(3) 攻撃面のリスク評価
収集した情報を基にリスクをスコアリングし、対応優先度を明確化します。このプロセスにより、関係者間で優先度の共通認識を持つことができ、限られたリソースを最も重要な脆弱性対策に集中させることが可能となります。リスク評価においては、脆弱性の深刻度だけでなく、資産の重要性や攻撃の可能性も考慮に入れる必要があります。
ASMの主なメリット:攻撃対象の可視化から業務改善まで
攻撃対象の包括的な可視化と管理
ASMの最大のメリットは、企業が把握していないシステムや外部露出資産を特定できることです。シャドーIT、忘れ去られた開発環境、M&Aで引き継いだシステムなど、管理から漏れている資産を発見し、セキュリティリスクを低減できます。
継続的な監視の実現
静的なスナップショットではなく、動的な変化を捉える継続的な監視により、新たに追加された資産や、設定変更によって生じた脆弱性を即座に検知できます。これにより、攻撃者に悪用される前に対策を講じることが可能となります。
効率的なリスク評価と優先順位付け
スコアリングによるリスク評価により、最も危険なリスクにリソースを集中できます。すべての脆弱性に対して均等にリソースを割くのではなく、ビジネスへの影響度が高い脆弱性から優先的に対処することで、効率的なセキュリティ運用が実現します。
コンプライアンスの強化
規制要件や業界標準への準拠状況を継続的に監視し、コンプライアンス違反のリスクを低減できます。特に、個人情報保護法やGDPR等のデータ保護規制への対応において、外部公開資産の適切な管理は不可欠です。
クラウド・SaaSのセキュリティ強化
クラウドサービスやSaaSアプリケーションの利用が拡大する中、これらの資産に対するセキュリティ管理も重要性を増しています。ASMにより、クラウドで構築した外部公開資産の把握とセキュリティリスクへの対応をすることができます。
隠れたメリット:業務改善・組織改革・経営支援
ASMの導入は、セキュリティ強化だけでなく、業務改善、組織改革、経営支援といった多方面への波及効果をもたらします。IT資産の可視化により、重複投資の削減、ライセンス管理の最適化、IT戦略の立案支援など、幅広い分野でのメリットが期待できます。
ASMの限界?
ASMで資産と脆弱性を「見つける」ことはできても、「どう対処するか」という課題が残ります。各領域(クラウド、アプリケーション、ソフトウェアサプライチェーン)の専門的な対策を統合することで、より包括的なセキュリティ体制を構築できます。
また、アプリケーション層の脆弱性管理やクラウド設定領域などについては対象外となるため、複雑なIT環境では、統合セキュリティプラットフォームの必要性が高まっています。サイロ化された機能同士での相関連携・分析が可能となることで、単一のツールでは見逃してしまうリスクを発見し、より効果的な対策を実施できます。
【統合ソリューションの威力】CSPM、SBOM、DASTを連携させたリスク管理
CSPM(Cloud Security Posture Management)との連携
ASMがクラウド資産を発見した後、CSPMがその設定ミスやコンプライアンス違反を自動的かつ継続的に監視・可視化します。これにより、クラウド環境のセキュリティ態勢を大幅に強化できます。
CSPMとの統合により、クラウドインフラストラクチャの設定ミス、過度に寛容なアクセス権限、暗号化されていないストレージ、コンプライアンス違反などを即座に検出できます。既にクラウド連携済みのプラットフォームであれば、シームレスにCSPM機能を活用可能で、クラウドネイティブなセキュリティ運用を実現できます。
SBOM(Software Bills of Materials)との連携
ASMやCSPMが特定したアプリケーションやクラウドリソースに対して、SBOMがその構成ソフトウェアの脆弱性を詳細に分析します。GitHub連携やクラウドリソース連携により、使用しているオープンソースソフトウェアやサードパーティライブラリの脆弱性を網羅的に把握できます。
この連携により、開発段階での脆弱性早期発見とリリース遅延の防止が可能となります。サプライチェーン攻撃への対策としても極めて有効で、依存関係にある全てのコンポーネントのセキュリティ状態を可視化できます。
DAST(Dynamic Application Security Testing)との連携
ASMが検出したWebアプリケーションに対して、DASTによって動的に脆弱性を検出します。OWASP Top 10に代表される一般的なWebアプリケーション脆弱性を、実際の攻撃シナリオを模倣しながら検出できます。
それにより、アプリケーションの動的セキュリティテストを定期的に実施し、SQLインジェクション、クロスサイトスクリプティング(XSS)、認証・認可の不備などを発見できます。静的解析では見つからない実行時の脆弱性を検出することで、より堅牢なアプリケーションセキュリティを実現します。
統合による相乗効果
発見(ASM)→ 分析(CSPM/SBOM)→ 検証(DAST)→ 修正のサイクルが一気通貫で実現します。この統合アプローチにより、セキュリティ管理の一元化で運用負担が大幅に軽減され、DevSecOpsとの統合、開発チームとの連携促進も実現します。
統合プラットフォームでは、各ツールから得られた情報を相関分析し、単一のダッシュボードで全体のセキュリティ状況を把握できます。これにより、セキュリティチームの生産性が向上し、インシデント対応時間の短縮、false positiveの削減、リスクベースの意思決定の精度向上といった効果が期待できます。
ASM導入のステップバイステップガイド(ASM(Attack Surface Management)導入ガイダンス準拠)
ステップ1:目的と範囲の定義
経済産業省のガイダンスに基づき、経営層の関与のもと、まずASM導入の目的を明確にします。セキュリティリスクの低減、コンプライアンス強化、インシデント対応の迅速化など、組織の優先課題を特定します。次に、対象となる資産の範囲を定義します。全社的な展開か、特定の事業部門から始めるか、段階的アプローチを検討します。また、ASMの運用に関わる主要な関係者(情報システム部門、開発部門、経営層など)を特定し、連携体制を意識します。
ステップ2:ツール/サービスの選定
組織のニーズに合ったASMツールやサービスを選定します。統合プラットフォームの検討も重要です。評価基準として、カバレッジの広さ、検出精度、統合機能(CSPM、SBOM、DAST)、レポーティング機能、コスト、サポート体制、既存のセキュリティツールやシステムとの連携性などを考慮します。可能であれば、複数の候補ツールでPoC(概念実証)を実施し、自社の環境での有効性や操作性を評価することを推奨します。
ステップ3:導入と初期スキャンの実行
選定したツールを導入し、初期スキャンを実行します。この段階で、組織が把握していなかったシャドーITや、誤った設定、古いシステムなど、多数の資産や脆弱性が発見されることが一般的です。初期スキャン結果は、今後の継続的監視と改善活動の起点となる「ベースライン」として、詳細に分析し、文書化して確立します。
ステップ4:リスク評価と優先順位付け
スコアリングを活用してリスクを評価し、対応の優先順位を決定します。この際、技術的な脆弱性の深刻度だけでなく、「ビジネスへの影響度(事業継続性、情報漏洩リスクなど)」、「インターネットからの到達可能性」、「対応の容易さ」などを総合的に考慮した評価基準を策定します。
ビジネスクリティカルな資産、外部からアクセス可能な資産、既知の脆弱性が存在する資産などを優先的に対処します。リスク評価マトリクスを作成し、情報システム部門、開発部門、事業部門など関係者間で共有し、合意形成を図ります。必要に応じて、外部専門家の知見も活用し、評価の精度を高めることを検討します。
ステップ5:是正措置と継続的監視の体制構築
識別されたリスクに対する是正措置を、優先順位に基づいて速やかに実施します。是正措置の進捗状況は定期的に追跡し、効果を測定します。
ASMの有効性を維持・向上させるため、少なくとも四半期に一度は定期的なレビューと改善活動を実施します。検出されたリスクの傾向分析、ツールの設定見直し、最新の脅威情報への対応、経営層への定期的な報告などを通じて、ASMプロセス全体の成熟度を高めていきます。識別されたリスクに対する是正措置を、優先順位に基づいて速やかに実施します。是正措置の進捗状況は定期的に追跡し、効果を測定します。
よくある質問(FAQ)
Q: ASMと脆弱性診断の違いは?
A: 脆弱性診断は既知の資産に対して脆弱性を検出するのに対し、ASMは未知の資産も含めて攻撃対象領域全体を発見・管理します。ASMは攻撃者の視点から組織を見ることで、管理から漏れている資産も含めて包括的にリスクを評価します。
Q: CSPMだけではダメなのか?
A: CSPMはクラウド環境に特化していますが、ASMはオンプレミス環境も含めた全体的な攻撃対象領域を管理します。両者を統合することで、ハイブリッド環境における包括的なセキュリティ管理が実現します。
Q: 導入に必要なリソースは?
A: 組織規模により異なりますが、初期導入には1-3ヶ月、運用体制の確立には追加で3-6ヶ月程度が目安です。専任担当者1-2名と、関連部門との連携体制が必要です。統合プラットフォームを選択することで、運用負荷を大幅に削減できます。
Q: 統合プラットフォームのメリットは具体的に?
A: 単一のダッシュボードでの一元管理、ツール間のデータ連携による深い洞察、運用コストの削減、学習曲線の短縮、ベンダー管理の簡素化など、多くのメリットがあります。特に、相関分析による高度な脅威検出は、統合プラットフォームならではの強みです。
Q: SecurifyのASM統合ソリューションについて詳しく知りたい
A: Securifyでは、ASM、CSPM、SBOM、DASTを統合した包括的なセキュリティプラットフォームを提供しています。お客様の環境に合わせたカスタマイズや、導入支援サービスも充実しています。詳細は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。
まとめ:2025年のセキュリティ対策はASMの統合から
攻撃対象領域の可視化・管理は、現代のセキュリティ対策の必須条件となっています。サイバー攻撃の高度化と企業IT環境の複雑化が進む中、Attack Surface Managementの重要性はますます高まっています。
単体のASMではなく、CSPM、SBOM、DASTと統合されたプラットフォームが、真のリスク低減と効率的な運用を実現します。各ツールの強みを組み合わせることで、発見から修正までの一貫したセキュリティサイクルを構築できます。
経済産業省のガイドラインを参考に、自社に最適な統合セキュリティ体制を構築しましょう。2025年のサイバーセキュリティにおいて、ASMを中心とした統合アプローチは、もはや選択肢ではなく必然となっています。今こそ、攻撃者の一歩先を行くセキュリティ戦略を実現する時です。
SecurifyのASM機能についてはこちらでご紹介しております。併せてご覧ください。
