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CIEMとは?CSPMでは防げない「権限」を管理する新常識を徹底解説

設定ミスを防ぐCSPMが広く知られる一方で、「正当な権限が悪用される」攻撃が急増しており、従来のセキュリティ対策だけでは守りきれない領域が拡大しています。本記事では、CIEMの本質、なぜ今必要なのか、CSPMやCWPPとの違い、導入メリット、ツール選びのポイント、そしてその限界と補完策まで、本記事で完全理解できるよう、実例と専門的知見をもとに徹底解説します。


はじめに:過剰な権限管理の実例と危険性

ある事例では、開発チームが誤って全社員にAWS管理者権限を付与してしまいました。その結果、一人の従業員が誤操作で本番データベースを削除。さらに悪いことに、外部コンサルタントがこの権限を悪用して顧客データをS3バケット経由で不正に持ち出す事態となりました。

このような事態が起きた根本原因は、単なる設定ミスではありません。

注目すべきは、クラウドプロバイダーが推奨するベストプラクティスに従った設定がされていたにもかかわらず、「過剰な権限」の付与によって攻撃者が「正当なアクセス」として悪意ある行為を実行できた点です。

Gartnerの2023年の調査によると、「2025年までにクラウドセキュリティインシデントの80%以上がIDと権限の管理ミスに起因する」と予測されています(Gartner, “Innovation Insight for Cloud Infrastructure Entitlement Management”, 2023より)。

これは、従来のCSPM(Cloud Security Posture Management)だけでは対処できない「権限のガバナンス」こそが、現代のクラウドセキュリティにおける最大の課題であることを示しています。


CIEMとは何か?—「誰が、何に、何ができるか」を制御する技術

CIEM(Cloud Infrastructure Entitlement Management)とは、クラウド環境における権限を継続的に可視化・分析・最適化する機能です。この「エンタイトルメント(権限・特権)」という概念は、クラウドアクセス管理の中核をなすものです。

具体的には、エンタイトルメントには以下のようなものが含まれます:

  • AWSのIAMポリシー
  • Azureのロール割り当て(RBAC)
  • Google CloudのIAMバインディングなど、ユーザー・サービスアカウント・ロールに付与された権限の集合のこと

CIEMの核心:最小権限原則の自動実現

CIEMが解決する課題は明確です。例えば

「S3バケットへのフルアクセス権限を持つIAMユーザーが100人いるが、過去90日間で実際に使ったのは3人だけ。残り97人は本当にその権限が必要なのか?」

CIEMは、このような「未使用・過剰な権限」を検出し、最小権限原則(Principle of Least Privilege)に基づいて必要最小限の権限に整理することで、セキュリティリスクを低減します。

最小権限原則とは、ユーザーやサービスに対して「必要最小限の権限のみを付与する」というセキュリティの基本原則です。この原則は、

  • 攻撃対象領域の縮小 – 不要な権限が悪用される可能性を排除
  • 被害の局所化 – 万が一侵害されても影響範囲を最小化
  • 管理負荷の軽減 – 必要な権限のみを管理することでガバナンスを簡素化

といった複数のメリットをもたらします。しかし従来は、この原則を大規模クラウド環境で実装することは実質的に不可能でした。CIEMは機械学習とクラウドネイティブな自動化を駆使して、この原則を現実的に実現可能にする画期的なアプローチなのです。


なぜ今、CIEMが必要なのか

クラウド環境の「権限爆発(Permission Sprawl)」

近年、マイクロサービスアーキテクチャの採用やTerraformなどのIaCツールの普及、そして複数クラウドの併用により、権限管理の複雑さは格段に増しています。具体的には

  • 単一のAWSアカウントでさえ数千ものIAMロールが存在することも珍しくない
  • AWS、Azure、Google Cloud など複数のクラウド間で複雑に絡み合ったアクセス権限が日常的になり、手動での適切な管理はほぼ不可能な状況に

クラウドの責任共有モデルにおけるユーザーの役割

AWSが提唱する責任共有モデルでは明確に述べられています。

「クラウド内のセキュリティは、お客様の責任範囲です」

つまり「誰にどのような権限を与えるか」は完全にクラウド利用者側の責任であり、クラウドプロバイダーは権限の不適切な付与を自動的に防止してくれるわけではありません。


CIEM・CSPM・CWPPの比較 — 混同されやすい3つの違いを整理

項目CIEMCSPMCWPP
保護対象アイデンティティと権限(IAM、ロール、ポリシーなど)クラウド設定(セキュリティグループ、公開バケット、暗号化設定など)クラウド上のワークロード(VM、コンテナ、サーバーレス関数など)
主な目的過剰な権限の特定と最小権限原則の実現設定ミスの検出と修正ワークロード上の脆弱性や不正プロセスの検出
具体例「このIAMユーザーには業務に不要なEC2停止権限が付与されている」「このS3バケットが誤って一般公開設定になっている」「このEC2インスタンスにはLog4j脆弱性が存在する」

補足:CNAPPという統合アプローチ

CNAPP(Cloud-Native Application Protection Platform)は、CSPM、CIEM、CWPPなどを包括的に統合した次世代のセキュリティプラットフォームです。

Gartner社の2023年のレポートによれば、CIEMはCNAPPの中核要素として位置づけられており、個別ツールではなく統合的なアプローチが推奨されています。


CIEMの限界と統合セキュリティの必要性

CIEMは強力なツールですが、これだけで企業のセキュリティを完全に守ることはできません。ここでは、CIEMの主な限界と、それを補完する効果的なアプローチを紹介します。

限界1:シャドーITの把握が困難

各部門が独自に契約した「見えないクラウドアカウント」はCIEMの監視範囲外になります。この問題に対処するには、ASM(Attack Surface Management)を導入して、企業全体の外部公開リソースを包括的に可視化することが効果的です。

限界2:アプリケーションレベルの脆弱性には対応できない

権限管理が完璧であっても、アプリケーション自体に脆弱性があれば攻撃は成功してしまいます。この課題に対しては、SBOM(ソフトウェア部品表)による構成把握とDAST(動的分析)による脆弱性検出を組み合わせることが重要です。

限界3:正規認証情報の不正取得を完全には防げない

フィッシングなどのソーシャルエンジニアリング攻撃による認証情報の窃取は、権限管理だけでは防ぎきれません。UEBA(ユーザー行動分析)多要素認証(MFA)を組み合わせて、不審なアクセスパターンを検知する対策が必要です。

こうした限界を克服するためには、CIEM・CSPM・ASM・アプリケーションセキュリティを統合したプラットフォームが理想的です。これらの要素が連携することで、クラウド環境全体を「多層防御」で効果的に保護できます。

統合セキュリティプラットフォームの最大の利点は、セキュリティチームの業務効率化にあります。単一のダッシュボードでリスクを一元管理できれば、複数ツールからの膨大なアラートに疲弊することなく、本当に重要な脅威への対応に集中できるようになります。


まとめ

クラウドセキュリティの焦点は、単なる「設定ミス」の防止から、「誰が何にアクセスできるか」という権限管理へと移行しています。

CIEMは、組織内に潜む過剰な権限を可視化し、最小権限原則を実務レベルで実現するための不可欠なツールとなっています。

ただし、包括的な防御体制を構築するには、CIEMをCSPM、ASM、SBOM、DASTなどと組み合わせた統合的なセキュリティ管理が必要不可欠です。

弊社の Securify は、これらのソリューションを統合し、クラウド環境を包括的に保護するプラットフォームをご提供しています。

詳細については、お気軽にお問い合わせください。

SecurifyのCSPM機能についてはこちらでご紹介しております。併せてご覧ください。


参考文献

  • Gartner, “Innovation Insight for Cloud Infrastructure Entitlement Management”, 2023
  • AWS Shared Responsibility Model: https://aws.amazon.com/compliance/shared-responsibility-model/
  • CrowdStrike Global Threat Report 2024
  • Palo Alto Networks Unit 42 Cloud Threat Report, 2024
  • CIS Controls v8 – Identity and Access Management

 

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